ホクホクしたさつまいもが好きだ。
いま流行りのネットリ系ではなく、
昔ながらのホクホク系がいい。
幼い頃。
母親が鹿児島出身だったので、よく安納芋が食卓に上がった。
安納芋は種子島でしか栽培されてない、いわばブランド芋である。
安納芋は、ネットリと水分が多くて、すごく甘い。
蜜たっぷりの、芋ペーストみたいな味だ。
おいしい。たしかに、おいしいのだが。
私は昔から、普通にスーパーとかで売ってるホクホクした芋のほうが好きだった。
ほっくりした食感と、自然な甘さ。
口の中がパサパサになる感じ。
そんな芋が、狂おしいほど好きだった。
なので、贅沢な話ではあるが、安納芋を見るたび「またこれか」とションボリしていた。
幼い私は思った。
「大人になったらホクホクした芋を好きなだけ食べよう」と。
そして時は経ち1人暮らしを始めた私は、期待に胸を膨らませていた。
しかし、待ち受けていた現実は厳しかった。
スーパーで買った「普通のさつまいも」を蒸かして、食べてみる。
あれ、ちょっと違う気がする。
確かに甘くておいしいが、水分が多くてネットリしているのだ。
あの、ホクホクした芋はいずこへ?
よくよく調べてみると、私が好きなホクホク系の品種は「紅あずま」。
今しがた食べた芋は「紅はるか」だった。
その後、スーパーで探すも「紅あずま」はなかなか見つからない。
どうやら、スーパーに並ぶ「普通の芋」は、ホクホク系から、ネットリ系に変わっていたらしい。
紅あずまの生産量は年々減っていて、
代わりに紅はるかを栽培する農家さんが増えているのだとか。
いつのまにか世の中は、ネットリ芋ブームになっていたのだ。
な、なんということだ。大人になったら、ハッピーホクホク芋ライフが待っていると思ったのに!
しかし、諦められぬ。
あのホクホクを!どうしても手に入れたいッ!
私は紅あずまを扱っているスーパーを探し回った。
3軒ほどハシゴし、少し遠くのマックスバリュで発見。思わず大量買いする。
炊飯器で蒸し、食べきれない分は冷凍庫へ。
フフフ……これでチンすれば、いつでもホクホク芋が食べられる!
かくして私は、ハッピーホクホク芋ライフを手に入れた。
たしかにお茶とか牛乳は必須だけど、この自然な甘さと香りが最高だ。
ホクホク芋、こんなにおいしいのに。
みんな、ネットリした芋が好きなのだな。
ちなみに私は、ネットリ系の芋アンチというわけではない。
ネットリ代表の紅はるかは、すごくいい品種だと思う。
普通に蒸しただけで焼き芋のように甘くなるし、水分が多いから食べやすいし。
ネットリ芋に罪はない。
罪深いのは、ホクホクを偏愛する、己の欲望なのだ。
ホクホクした芋が、今日もウマい。