ミスが多くてボロボロだったHSPの会社員が表彰されるまで(9)
09.ボロボロだった会社員が表彰された話
前回の続きです。
仕事のミスが多くてボロボロだった私は、
ADHDを疑って精神科に行ったが、ADHDではなくHSPだと分かった。
仕事のミスを減らそうと自分の性質と向き合っていたら、
仕事だけでなく、私生活でも「普通」に過ごせるようになった。
精神科へ通い始めてから、10ヵ月。
薬をやめて、さらに半年が経ったある日。
いつものように仕事をしていたら、支店長がこう言った。
「今年の最優秀支店賞、うちなんだって。表彰されるらしいよ」
毎年社内で発表されるその賞は、営業成績はもちろん、支店の利益率や損失額などあらゆる数字で決まる。
私の会社はモノを作ってる製造業ではなく、モノを売り買いしているだけの商社なので、営業員と私たちのような事務員だけで成り立っている。
営業が仕事を取ってきた分お金になるが、私たち事務がミスをするとお金が出ていく。
「うちの支店、表彰されるんですか」
「売上はそこそこだけど、ミスの報告書が少ないから選ばれたみたい」
当時、支店には8人在籍していた。全社で見ればかなり少ない人数だったので、
自分のミスが支店の数字にモロ反映されていた。だから驚いた。
薬を飲み始めてからミスが減ったのは実感していたけれど、そこまで少なくなってるとは思わなかった。
「ハァ……授賞式行くの、面倒くさい」
そう言った支店長の表情は、ちょっと嬉しそうだった。
授賞式の日。
まだコロナ禍になる前だったので、うちの会社は毎年わざわざ全国から社員を集めて、社内行事をしていた。その最後に、立食パーティーと授賞式が行われた。
普段の私はユニクロとクロックスで仕事しているので、着慣れないスーツと履き慣れないパンプスを一刻も早く脱ぎ捨てたい気持ちで、会場の1番後ろにいた。
2年ほど一緒に働いていてつい最近転勤したサクラさんも、同じくダルそうな表情で隣にいた。サクラさんは40代の男性営業マンだ。からっとした性格で、一緒にいると明るい気持ちが流れ込んでくるような人である。
「古志さんの支店、表彰されるんでしょう。なんかもらえるの?」
「金一封らしいですよ」
「いいな〜〜オレにもくれないかな」
「サクラさん惜しかったですよね、もうちょっとこっちにいれば貰えたのに」
「ほんとだよ〜〜」
支店長が司会に呼ばれ、壇上へと促される。
「営業はもちろん、事務や経理も優秀で、みんなに感謝しとります」などと、くだけた調子でスピーチが始まる。
サクラさんが
「支店長、なんか嬉しそうだね」
と言った。
「あ、やっぱそう思います?今朝もスピーチやだ〜って言いながら、ちょっと嬉しそうでした」
「よかったね、支店長。オレがいた頃もずっと忙しかったし」
「営業さんはいつも忙しいですもんね、やること多くて」
「事務方のフォローありきだよ〜〜ほんとお世話になったね、ありがとう」
「いやいや、サクラさんこそ、支店賞もらえたのもサクラさんの力が大きいですよ」
「ヤダァ〜〜ほんと?嬉しい〜〜」
サクラさんはおじさんだが、時々リアクションがおばさんになる。
スピーチを終えて、壇上で社長と話している、支店長を眺める。
相変わらず、頭頂部のみに毛が残るタイプのハゲで、中年太り気味である。
「なんか支店長って、キューピーちゃんみたいじゃないですか?」
「ヤダァ、似てる!も〜〜古志さんてそういうこと言うコだっけ?」
サクラさんと話しながら、私は自分の1年を振り返っていた。
あのときボロボロだったけど、精神科に行く決意をしてよかった。
会場にある大きな窓から、満開の桜が見えた。
清々しくて、穏やかな気持ちだった。
「入社6年目だし、ちょっと図々しくなってきたのかもしれないですね」
私がそう言うと、ワハハ、とサクラさんが明るい声で笑った。
完