ミスが多くてボロボロだったHSPの会社員が表彰されるまで(8)
08.ストラテラをやめられたきっかけ
前回の続きです。
私がストラテラを服用していたのは、約1年間だった。
薬を飲む前は、やめられなくなったらどうしよう、という不安がすごく大きかった。
結論としては、やめてもぜんぜん大丈夫だった。
3年ほど経った今も、仕事でのミスは減ったままで、日常生活での困りごともなく過ごせている。
どんなきっかけで薬をやめたのか
薬を飲み忘れたときの「なくても大丈夫かも」
やめたきっかけは、薬を飲むのをうっかり忘れた日のことだった。
出勤したとき飲み忘れに気付いて、
「またミスをやらかすかも」と怖くなった。
しかしその日、ミスは起こらなかった。
その後もたまに薬を飲み忘れることがあったが、
飲んでいる時の状態と飲んでいない時の状態の差が、ほとんど感じられないことに気がついた。
ふと「もう薬を飲まなくても大丈夫かもしれない」と思った。
勝手に薬をやめるのもなーと思って一応、先生に相談したら
「古志さんが困ることがなさそうなら、大丈夫ですよ。
やめて様子をみてみましょう」
と言われた。
その日から薬を飲まなくなった。
心配だった仕事のミスは、減ったままだった。
薬をやめてから3年ほど経った今でも、それは変わらない。
なぜ薬を飲まなくても大丈夫になったのか
補助輪を外しても漕いでいけるようになった
私がミスをしていた原因の多くは、HSPの性質によるものだった。
けれど薬を飲んだからといって、HSPの特徴が消えてなくなったわけではない。
人より多くの情報を受け取ってしまうのも、聴覚過敏も、そのままだ。
ではなぜミスを減らすことができたのだろう。
自分が苦手なことを克服できたのかと言われると、ちょっと違う気がする。
感覚的には「克服した」というよりも、
苦手分野と「上手く付き合っていくことができるようになった」という感じだった。
なんとなく、自転車に乗る感覚に近いかもしれない。
補助輪走行(薬の服用)で感覚を掴んだから、補助輪外せても漕いでいけるようになったのだ。
薬を飲んで変わったこと
ネガティブ人間⇒愛すべき「ふつうの人間」へ
薬を飲んで一番変わったことは、大きく分けて3つある。
①思考のクセ(=認知の歪み)の改善
②行動のクセの改善
③「心のゆとり」がミスを減らしてくれた
①思考のクセ(=認知の歪み)の改善
一番変わったのは、ネガティブ思考のクセを自覚したことだ。
自分がHSPだと分かってから、色々なことを試してみた。
(情報のシャットアウト・マルチタスクの回避など)
それまで「自分はなにもできない」と思い込んでいた。
でも「ひとつのことに集中すれば上手くいく」のだから、
「全てをシンプルにすれば、あらゆることができる」のだと気付いた。
それから、少しずつ自己肯定感が得られてきた。
②行動のクセの改善
その結果、周りにはっきりと「NO」と言えるようになった。
以前の私は、断るのがすごく苦手だった。
雰囲気を悪くしたくないし、「ミスばかりしているのに断ったら自分の評価がますます下がるんじゃないか」という不安もあった。
これまで長いこと断らない人生を送ってきたので、いざ断ろうとしてもどうしたらいいのか分からない。
とりあえず、頭ごなしに否定するのはハードルが高すぎたので、
今自分がやっている仕事が手いっぱいで大変です、とやんわり伝えることから始めた。
これができるようになってから、仕事がやりやすくなった。
仕事を依頼してくる人は、自分が思っている以上に私の状況が分からないのだ。
HSPは相手の感情の機微を察しやすいので、忙しそうにしている人には声を掛けづらいと思ってしまう。私もどこかで「相手も分ってくれるだろう」と期待していた。
だが残念ながら、仕事で「察してくれるかも」が叶うことはほぼない。
非HSPの人々は、そこまで人を観察しないし、いちいち感情に寄り添うこともしない。
だけど「自分はこういう状況です」と言葉にすれば、
「すぐにやらなくてもいいから、終わったらやってほしい」とか「他の人に頼んでみます」と返ってくる。
状況を言葉にすれば分かってもらえるし、意見のすり合わせができるのだ。
なんでもかんでも引き受けるのがいいことだと思っていたけれど、
ただ自分の仕事量が増えるだけで「組織としての効率化を重視してない」ということでもあった。
で、これが不思議なのだけど、「お断り」するようになってから
なぜか周りから「大事にされる」ようになったと感じた。
次に仕事を引き受けたとき、相手に
「忙しそうなのに、それでも自分の仕事を引き受けてくれた」
と思わせられるのかもしれない。
なんというか、仕事を断ることで「私」という存在が濃くなった感じがするのだ。
それまで私は自分の感情を透明にしようとがんばっていたけど、周囲にとっては「何を考えてるのかいまいち分からない」存在だったのだと思う。
自分の感情を表明することで、コミュニケーションの量も増えて仕事がやりやすくなった。
仕事は断った方がいいケースもある。説明すれば周りは分かってくれるし、大事にされる。
これはかなり発見だったし、ミスを減らせた大きな要因だった。
あと、以前の私には先延ばしグセがあった。
手を付けるまでに「失敗したらどうしよう」とか「どういう風にやろう」などと考えて、結局手を付けないままダラダラと先延ばししてしまうことが多かった。
先延ばしするのはマジでいいことがない。急いでその仕事を終わらせなきゃいけなくなったり、そのまま忘れてしまったり、ミスをしやすくなるのだ。
でも、薬を飲み始めてから「言われたことをすぐにやる」がすごく実践しやすくなった。
実際に、日々の中で何度も「すぐにやる」を実践していると、仕事もプライベートもどんどん上手く回り始めることに気づく。
その、ごくごく小さな「成功体験」を重ねていくことで
「すぐやる」=「楽」という考えが無意識に植え付けられていく。
そういった成功体験が重なっていくうちに「言われたことをすぐにやる」ことが苦にならなくなった。
これもミスが減った要因のひとつだった。
③「心のゆとり」がミスを減らしてくれた
こうして少しずつ行動を変えて、ミスが減っても、気が急いているときはミスをしてしまう。
そのときは幸いにも周りがリカバリーしてくれたが、焦りは大敵だと実感した。
結果的に「ゆっくり確実に」作業するのが一番効率がよかった。
でも以前の私は「ゆっくり確実に」ができなかったのだ。
ひとりでいっぱいいっぱいになることが多かったので、常に気持ちが急いていた。
いっぱいいっぱいの原因は、人に頼ることができなかったことだ。
自己肯定感が低いこともあったけど、無能だと思われることが怖かった。
周りにできるやつだと思われたかったのだ。ある意味プライドが高かったのかもしれない。
今は自分がミスをしやすいところが把握できたので、周りの人に業務の最終チェックを頼んだり、抱えてる仕事を少しお願いしたりする。
業務量が調整できるおかげで、精神的な余裕が生まれた。
人に頼ることで生まれた心のゆとり、これもミスを減らせた要因のひとつだった。
次回、いよいよ最終回。
「ミスだらけでボロボロだった会社員、表彰される」そして「ハゲ再び」
お楽しみに!