殺人出産を読んだ。
10人産んだら1人殺していい世界、という設定を知ってから、ずっと読んでみたかった!こういう善悪が転換した世界観、好きだ。人の善性と悪性は、表裏一体で、受け手や時代によってあっさりと転覆するものだ。そういう価値観が、なぜか私の中にずっとある。
読んでみたら、思い描いていた通りの世界観で、すごくよかった。想像以上にグロくて残酷ではあったけど、村田先生の文章がうますぎてするする読めてしまう。美しい旋律に乗ったグロテスクな人間のありさま。短編集なので、殺人出産を読んだらもういいかな、と思ったけど、読み進めてみると、善悪が転換する話が集められた本だと気づく。ほかの話も、夢中で全部読んだ。
殺人出産、面白かった。登場人物が少ないので、集中できるし、内輪でドラマチックな展開が起こるのが楽しいし、気持ちいい。ゴシップへの渇望が満たされる感じ。ラストシーンは衝撃的だけど、爽快感というかカタルシスのようなものが湧いてくる。さっきまで隔たりのあった世界と、融合したような感覚になる。
他の短編も全部面白かったけど、最後の「死期を選べるようになった時代の、死にゆく人」の小説が、なんか好きだった。すごく短い話だけど、他の話の世界観がどぎつかったので、すぐ設定が飲み込めるようになってる自分に気付く。すっかり訓練されている。読み進めていくと、ああこれで人生が終わるんだ、と妙な安らぎすら覚える。本の最終章としても、ふさわしい話だと思った。
軽い感じで感想を書いてしまったが、読む人によっては気分が沈む可能性のある作品なので、肉体と精神が健康なときに読まれることをおすすめします。
※ここからネタバレ※
殺人出産のラストシーンで、主人公が姉と一緒に殺人をするとき、主人公が一緒に殺されやしないかと、すごくハラハラしてしまった。それは気鬱に終わって、まさかの仲良し殺人シーンになるのだが。私はそのシーンで、主人公と姉の絆を感じて、不思議と安堵した。人との繋がりは、綺麗事だけではない。人はもとよりグロテスクな生き物だ。皮膚を1枚剥げは血や臓物が溢れ出す。愛も憎しみも優しさも殺意も、全部その中に入っている。2人が殺人をしているかたわら、それを覗き込んでいた私は、生温く匂い立つ血を浴びながら、2人の歪んだ、でも確かな繋がりを見ていた。